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神戸地方裁判所 昭和52年(行ウ)18号 判決

兵庫県三木市緑ケ丘本町一丁目一四五

原告

桜井幸子

原告

桜井満佳

右両名訴訟代理人弁護士

佐伯雄三

井藤誉志雄

藤原精吾

前哲夫

兵庫県三木市末広一丁目七番一〇号

被告

三木税務署長

香山敏廣

右指定代理人

高須要子

本落孝志

平井武文

熊本義城

光森章雄

野口成一

主文

被告が原告らに対し昭和五〇年一〇月一三日付でした亡桜井国松の昭和四七年分所得税についての更正のうち分離短期譲渡所得の金額金一七四〇万〇七〇〇円として計算した額を超える部分及び過少申告加算税賦課決定のうち右超える部分に関する部分を取消す。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その四を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告らに対し昭和五〇年一〇月一三日付でした亡桜井国松の昭和四七年分所得税に係る更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは、昭和四八年三月一五日、被告に対し、昭和四七年一二月二九日死亡した被相続人訴外桜井国松の昭和四七年分所得税について、総所得金額を一二〇三万三八四五円(内訳 不動産所得の金額一七〇万三五四五円、譲渡所得の金額一〇三三万〇三〇〇円)、納付すべき税額四〇五万三〇〇〇円とする確定申告書を提出した。ところが、被告は、右申告に対し、昭和五〇年一〇月一三日付をもって、不動産所得金額を一七〇万三五四五円、分離短期譲渡所得の金額を一九二五万〇七〇〇円、納付すべき税額を九六四万七四〇〇円とする更正及び過少申告加算税の額を二七万九七〇〇円とする賦課決定(以下、それぞれ本件更正、本件賦課決定という。)をなし、その頃、右各処分の通知書を原告らに送達した。

2  原告らは、被告に対し、昭和五〇年一一月一八日、異議申立をし、昭和五一年二月六日被告からこれを棄却する旨決定されたので、同月一六日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、昭和五二年三月二九日、同所長からこれを棄却する旨の裁決をされ、同年四月二五日頃その裁決書は原告らに送達された。

3  しかし、本件更正には、分離短期譲渡所得として課税し、なお、譲渡価額、取得費及び譲渡費用の価額の認定を誤った結果、譲渡所得金額を過大に認定した違法がある。すなわち、

(一) 桜井国松が有限会社山河開発(取締役社長金達謙。以下、山河開発という。)から別紙一物件目録記載の山林(以下、本件土地という。)を買受けた時期及びその売買代金、取得費用等は、次のとおりである。

(1) 売買契約成立の日時 昭和四二年一〇月二六日頃

(2) 売買代金 八三二万五〇〇〇円

(3) 上郡正雄に対する登記費用 一万七五〇〇円

(4) 安本正一に対する仲介料 二五万円

(5) 山河開発に対する下水工事整地費等の負担金 九二万七五〇〇円

(二) 桜井国松が、本件土地を友信興業株式会社(以下、友信興業という。)に譲渡した時期、その売買代金及び譲渡費用等は、次のとおりである。

(1) 売買契約成立の日時 昭和四七年一一月一六日

(2) 売買代金 二一二九万八〇〇〇円

(3) 登記費用 六七〇〇円

(4) 児島善二に対する仲介手数料 六三万九〇〇〇円

以上の事実から明らかなように、桜井国松の本件土地の保有期間は五年以上であって、その譲渡に係る所得は、租税特別措置法第三一条に規定する分離長期譲渡所得に該当し、その金額は右(二)の(2)の金額から右(一)の(2)ないし(5)及び右(二)の(3)(4)の各金額を控除した一一一三万二三〇〇円である。

したがって、本件更正及びこれを前提とする本件賦課決定は違法であるから、その取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3の事実中、(一)の(3)の上郡正雄に対する登記費用一万七五〇〇円、(二)の(1)の売買契約成立の日時及び(二)の(3)の登記費用六七〇〇円を桜井国松が支出した事実は認めるが、その余の事実は否認する。

三  被告の主張

1  本件更正等に至る経過

原告らは、昭和四八年三月一五日、別紙二の(一)欄記載のとおり昭和四七年分の所得税の確定申告をした。被告は、原告らに対して、昭和四九年七月二五日付で別紙二の(二)欄記載のとおり更正及び過少申告加算税賦課決定をした。ところが、右処分にかかる通知書は桜井国松の相続人である原告ら二名の連名であったため、被告は、右処分を昭和五〇年九月二三日付で取消し、別紙二の(三)欄記載のとおり更正及び過少申告加算税賦課決定をし、原告らそれぞれに昭和五〇年一〇月一三日付通知書を送達した。

2  本件更正の根拠

(一) 桜井国松は、昭和四三年七月八日、山河開発から本件土地を代金六四七万円で買受けた。その際、登記費用として司法書士上郡正雄に対し、一万七五〇〇円を支払ったが、その他に支出した費用は存在しない。

(二) 桜井国松は、昭和四七年一一月一六日、本件土地を友信興業に代金二一二九万八〇〇〇円で売却したが、右代金額の外に税金負担分として四四四万六九〇〇円が支払われた結果、代金合計は二五七四万四九〇〇円となる。その際、桜井国松は、登記関係費用として、司法書士に対し六七〇〇円を支払ったが、その他に支出した費用は存在しない。

(三) 以上の事実から明らかなように、桜井国松が本件土地を保有した期間は五年未満であるから、本件土地の譲渡に係る所得は租税特別措置法第三二条に規定する分離短期譲渡所得に該当し、その金額は別表三記載のとおりとなり、原告らの昭和四七年分の納税額及び過少申告加算税額は別表二の(三)欄記載のとおりとなる。

したがって、本件更正及び本件賦課決定には違法はない。

第三証拠

一  原告ら

1  甲第一号証の一乃至五、第二乃至第八号証、第九号証の一及至三、第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二号証の一乃至七、第一三乃至第一五号証、第一六号証の一、二、第一七号証、第一八号証の一、二

2  証人児島善二、原告桜井幸子

3  乙第一乃至第八号証、第九号証の三、第一四号証の一、二、第一五号証、第二〇号証、第二三号証の一、二、第二四号証の各成立は認める。乙第九号証の二の、税金負担部分4,446,900 TOTAL25,744,900との記載部分の成立は知らないが、その余の部分の成立は認める。その余の乙号各証の成立は知らない。

二  被告

1  乙第一乃至第八号証、第九号証の一乃至三、第一〇号証の一乃至三、第一一乃至第一三号証、第一四号証の一、二、第一五乃至第二二号証、第二三号証の一、二、第二四号証

2  証人坂元良次

3  甲第二号証、第五号証、第七号証、第九号証の一乃至三、第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二号証の一乃至七、第一五号証、第一七号証、第一八号証の一、二の各成立は認める。甲第一号証の一乃至五の、官署作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は知らない。甲第一六号証の一、二の、乙第二二号証の記載と異なる部分の成立は否認するが、その余の部分の成立は認める。その余の甲号各証の成立(第四号証は原本の存在も)は知らない。

理由

一  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第二三号証の一、二、第二四号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第二二号証、並びに弁論の全趣旨によれば、被告の主張1の事実が認められる。

二  訴外桜井国松が、山河開発から本件土地を買受け、その登記費用として司法書士上郡正雄に対し、一万七五〇〇円を支払ったこと、桜井国松が、昭和四七年一一月一六日、本件土地を友信興業に譲渡し、その登記費用として司法書士に対し六七〇〇円を支払ったことは、当事者間に争いがない。

三  そこで、以下、本件における事実上の争点、すなわち、桜井国松の、友信興業への本件土地売却代金額、その際の仲介料支払の有無、山河開発からの本件土地買受の日時、代金額、その際の仲介料、負担金支払の有無について、順次検討することとする。

1  友信興業に対する本件土地売却代金額について。

成立に争いのない甲第五号証、乙第九号証の三、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第九号証の一、第一一号証、第一七号証、税金負担部分4,446,900 TOTAL 25,744,900の記載部分については証人坂元良次の証言及び右乙第九号証の一により真正に成立したものと認められ、その余の部分については成立に争いのない乙第九号証の二、証人坂元良次の証言により真正に成立したものと認められる乙第一〇号証の二、三、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一〇号証の一、証人坂元良次、同児島善二の各証言、原告桜井幸子本人尋問の結果(後記信用しない部分を除く。)を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  友信興業は、昭和四七年一〇月一五日頃、三共開発株式会社(以下、三共開発という。)から、本件土地に隣接する友信興業所有の山林約三万八〇〇〇坪の買受申込を受けた。その際、三共開発は、右山林の入口附近部分に位置する本件土地の買受をも希望したが、桜井国松と面識がなかったことから、友信興業に本件土地の買収を依頼した。そこで、当時友信興業の専務取締役であった坂元良次及び常務取締役であった児島善二の二人が共同して、桜井国松及び原告桜井幸子と交渉を始めた。そして、桜井国松が本件土地売却の意向を示したので、友信興業は、同年一一月一日頃、三共開発に対し、本件土地及び隣接する前記友信興業所有土地を売却する旨の契約を締結した。ところが、桜井国松は、前言を翻し、多額の税金を負担しなければならないということを主たる理由として本件土地の売却に難色を示すに至った。本件土地を含めて買受けることが三共開発側の条件であったため、既に売買代金の内金一億円余を受領していた友信興業は、苦境に陥り交渉を重ねて桜井国松を説得した結果、両者間に、同年一一月一六日、坪当り一万一五〇〇円の割合による合計二一二九万八〇〇〇円の売買代金の外に、専門家に計算させた桜井国松が納付すべき税金分四四四万六九〇〇円を買主が負担することを内容とする本件土地の売買契約が成立した。

(二)  友信興業(衝にあたった坂元良次ら)は、その第一勧業銀行山手支店の当座預金から引出した現金で、即日、桜井国松に、右合計二五七四万四九〇〇円を支払った(友信興業は、右当座預金から、同月一四日に三〇〇万円、同月一六日に二五〇〇万円を引出し、同日、あらためて二二五万五一〇〇円を入金している。)なお、桜井国松は、税金負担部分については領収証を作成交付しようとしなかったので、支出金の使途を明確にしておく会社の経理上の必要から、契約終了後、坂元良次において、桜井国松から交付された二一二九万八〇〇〇円の領収証(乙第九号証の二)に「税金負担分4,446,900 TOTAL 25,744,900」と鉛筆で書き入れた。

以上の事実によれば、本件土地売買代金は税金負担分四四四万六九〇〇円を含む二五七四万四九〇〇円であったと認めるのが相当である。

原告桜井幸子本人尋問の結果及び成立に争いのない甲第九号証の一乃至三、第一〇号証並びに弁論の全趣旨によれば、右本件土地売買代金の受渡しは司法書士の事務所で行なわれたが、桜井国松は、その場に株式会社太陽神戸銀行三木支店と銀行員を同道し、即日、定期預金として一三五〇万円、普通預金として七七九万八〇〇〇円、合計二一二九万八〇〇〇円を同支店に預入れたことが認められるけれども、受領した金員の全額を同時に預金しなかったとしても、そのこと自体は何ら不自然と目すべきことではないのみならず、以下の記述にもあらわれるように、本件において、桜井国松には、種々税金対策を意識した行動がみられることを考えれば、その故に本件売買代金が原告らの主張のように二一二九万八〇〇〇円であったと認めることはできない。その他、右認定に反する原告桜井幸子本人の供述は措信することができず、他に、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  児島善二に対する仲介手数料について。

証人坂元良次の証言により、同人が昭和四七年一一月一六日に髙橋明彦名義を用いて作成したものと認められる甲第六号証は、髙橋明彦が同日六三万九〇〇〇円を領収した旨の、桜井国松宛の領収証であり、また、前掲甲第一〇号証によれば、桜井国松が同月一八日に株式会社太陽神戸銀行に対する普通預金から六三万九〇〇〇円を引出していることが認められ、なお、原告桜井幸子本人は、右金額は、児島善二に要求され、同月一六日より以前に手数料ないし謝礼として支払うことが決っていたものを、その両三日後に預金をおろして同人に支払ったものである旨、供述している。しかしながら、本件土地の売買契約に関与した児島善二、坂元良次は、いずれも友信興業の取締役であって、仲介人的立場にあるものではなく、また、前記認定の売買契約成立に至る経緯にかんがみれば、自己の負担すべき税金分まで買主に負担させた桜井国松が、買主側に属する右両名らに対して仲介料等を支払うなどということは考えがたいところであるし、また、領収証の作成日に多額の売買代金か現金で支払われているのに、既に支払の額が決っている仲介料をその場では支払わず、後日あらためて預金を引出して支払うなどということは、いかにも不自然である。これらの点と、甲第六号証は、税金対策に用いるからとの桜井国松の要求により作成交付したもので、これに見合う金銭の授受はなされていない旨の、証人児島善二、同坂元良次の各証言、前掲乙第一一、第一七号証の各記載に照らせば、原告らの主張にそう前掲原告本人桜井幸子の供述は措信することができず、甲第六号証の存在にもかかわらず、児島善二に仲介料六三万九〇〇〇円が支払われた事実はないものと認めるほかはない。

3  山河開発からの本件土地買受の日時及び買受代金額について。

(一)  成立に争いのない甲第七号証売主山河開発買主桜井国松間の本件土地売買契約証書は、昭和四三年七月八日御契約として、同日付で作成されており、これには、売買代金は六四七万円とし、内金として桜井国松が山河開発に三〇〇万円交付したこと、及び、残金受渡期日は昭和四四年七月八日とする旨、記載されている。そして、成立に争いのない乙第四ないし第八号証によれば、桜井国松に対する本件土地の所有権移転登記は、昭和四三年七月一〇日売買を原因として同月二五日付でなされている。

(二)  これらの点につき、原告らは、右売買契約が成立したのは、昭和四二年一〇月二六日項であり、その頃、桜井国松は、郵便局からの借受金と手持ちの金員とをあわせて合計三〇万円を売主に支払っている、また、売買代金は、坪当り四五〇〇円で計算され、実際には、右六四七万円とは別途に一八五万円を支払い、結局合計八三二万円を支払っている旨、主張している。

(三)  まず、右売買契約の成立時期について、原告桜井幸子本人は、養鶏をするための土地を購入したいと思い物色していたところ、昭和四二年一〇月頃、たまたま桜井国松が飲み屋あたりで知り合った安本正一の紹介で本件土地及び山河開発を知り、これと交渉の末、代金坪当り四五〇〇円でこれを買受けることになったが、多少入金してくれといわれ、同月二六日に郵便局から二〇万一〇〇〇円を借り、同月末日頃三〇万円を金達謙に交付し、領収証をもらった旨、供述している。そして、官署作成部分の成立に争いがなく、原告桜井幸子本人尋問の結果によりその余の部分が真正に成立したものと認められる甲第一号証の一乃至五によれば、桜井国松及び原告桜井幸子が昭和四二年一〇月二六日高槻郵便局から合計二〇万一〇〇〇円を借受けている事実が認められる。

しかしながら、右原告桜井幸子本人の供述にあらわれたような経緯で成立した不動産の売買において、正式の売買契約書を作成するに先立って、既に売買契約が成立したのもとして三〇万円もの金員を内入れするのであれば、通常、その趣旨を明確ならしめる何らかの書面が作成されていてしかるべきであるところ、その形跡はなく、また、そうした趣旨は何ら正式の契約書である前掲甲第七号証の記載に反映していないのみならず、右供述にあらわれた領収書も、書証として提出されてはいないのである。しかも、成立に争いのない乙第一四号証によれば、昭和四二年一〇月二七日に、桜井国松は、井尻貞雄から大阪府門真市宮野町三番二号所在木造瓦葺二階建アパートを金三五〇万円で買受け、その代金を同日支払っていることが認められるのであって、前認定の高槻郵便局から二〇万余円を借受けたとの事実も、時期を同じくして相当額の資金を確保する必要があったことに照らせば、前記原告らの主張にそう原告桜井幸子本人の供述を的確に裏付けるものと評価することはできないのであって、結局、右供述は措信することができない。

したがって、山河開発と桜井国松との間の本件土地の売買契約は、前記甲第七号証不動産売買契約証書記載の文言どおり、昭和四三年七月八日に締結されたものと認めるのが相当である。

(四)  次に、買受代金額について検討する。

前掲甲第七号証、乙第四乃至第八号証、原告桜井幸子本人尋問の結果及び甲第七号証の山河開発取締役社長金達謙名下の印影との照合により真正に成立したものと認められる甲第八号証によれば、次の事実が認められる。

(1) 甲第八号証は、山河開発が昭和四四年七月一九日付で作成した、一八五万二〇〇〇円(ただし、昭和四三年七月八日八五万円、昭和四四年七月一九日一〇〇万円)を領収した旨の、桜井国松宛の領収証である。もっとも、そこには、受領したのが何のための金銭であるのかは、明示されていない。

(2) 甲第七号証契約書では、代金六四七万円の、内金三〇〇万円は即日支払われたことになっており、残金三四七万円は昭和四四年七月八日に支払う約定となっているが、なお、特約条項として、売主は買主から残金を期日までに全額完済の節は速かに代物弁済予約の仮登記を抹消する。買主は、右不履行の場合は、異議なく三四七万円に該当する物件(ただし、坪当り三五〇〇円の割合)を売主の所有名義に変更する、旨の記載がある。

(3) 本件土地について、桜井国松に所有権移転登記がなされた昭和四三年七月二五日に、同日一〇日停止条件付代物弁済契約(条件、同日金銭消費貸借の債務不履行)を原因として、停止条件付所有権移転仮登記がなされている。

(4) 右仮登記は、昭和四四年七月一九日解除を原因として、同年八月二二日抹消されている。

右(2)で認定した特約条項に照らせば、右(3)の仮登記は、本件土地売買残代金の支払担保のためになされたものと考えられる。そして、右(4)の事実から、昭和四四年七月一九日に、本件土地売買に関する代金支払が完了した(現実にいくらかの残金がその日に支払われた)ものと推認される。しかして、その段階において、山河開発の側に、桜井国松の要求に応じて架空の、乃至は真実と異なる内容の記載をした領収書を作成交付しなければならないような理由があったとみるべき事情はうかがわれない。以上の諸点にかんがみれば、桜井国松から山河開発側に対して甲第八号証記載どおりに金銭が現実に支払われたものとみるべきである。そして、それは、本件土地売買代金の一部であったと推認される。しかも、最終決済時の一〇〇万円は、残代金三四七万円中の未払分であったと説明する余地がないではないけれども、契約時にあたる昭和四三年七月八日の八五万円は、内金三〇〇万円の支払に関する甲第七号証の記載が前記(2)のとおりであるところからすれば、甲第七号証記載の売買代金額とは別枠のものとみるのでなければ説明のつかないものとなる。

ところで、右代金額に関する原告桜井幸子本人の供述は、おおむね次のとおりである。すなわち、当初、金達謙は、坪当り六〇〇〇円で売るといったが、交渉の結果坪当り四五〇〇円で話がまとまった、契約書の作成にあたり、金達謙は、共同事業者である兄に見せなければならないが、諸般の出費については自分が責任をもたなければならないから、内坪当り一〇〇〇円分は別口に取扱って自分の懐に入れることとし、契約書には坪当り三五〇〇円で売ったように記載したいと申述べ、これを桜井国松が了承した結果、甲第七号証が作成された、甲第七号証記載の代金六四七万円のほか、現実に、別口で、甲第八号証記載のとおり、二回に分けて合計一八五万円を支払っている(端数の二〇〇〇円はまけてもらった)、というのである。

右供述と、さきに書証から認定した事実関係及びこれから推認されるところなどをあわせて考えれば、山河開発から桜井国松への本件土地の売買代金額は、坪当り三五〇〇円、一八五〇坪で計算して端数を削った甲第七号証記載のそれに別口で現実に支払われた一八五万円を加えた八三二万円であったと認められる。

もっとも、原告桜井幸子本人は、別口の八五万円、一〇〇万円は、いずれも司法書士事務所の向いの喫茶店で支払った旨供述しているところ、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一九号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第二一号証によれば、右供述にあらわれた喫茶店は当時存在しなかったことが認められ、この点において若干の疑問が残るけれども、右の点は、記憶違いか、あるいは、本件における各争点に関する偽装とともに、桜井国松亡き現在、すべてを自己の直接経験とする説明のための工作がすぎて自ら供述に矛盾をまねくに至ったものと考えられないでもないから、その故に右の認定が左右されるものともいいえず、他に、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

4  安本正一に対する仲介料について。

前記原告桜井幸子本人の供述にあらわれた程度に関与したにとどまる安本正一に、正規の宅地建物取引業者に支払われる仲介料にも匹敵する売買代金額の三パーセント強にあたる仲介料を支払うなどということは、それ自体、通常考えがたいところであるから、的確な裏付けもないままに、安本正一に仲介料二五万円を支払った旨の原告桜井幸子本人の供述を信用することはできない。ところで、甲第三号証は、眞問市藤田町二丁目一八号安本正一が三木市細川東山の山林の仲介料として金二五万円受領した旨の桜井国松宛の領収証であるが、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一六号証並びに弁論の全趣旨によれば右眞問市藤田町は大阪府門真市藤田町の意味で記載されたものと推認しうるところ、右藤田町は門真市にはなく、守口市に所在すると認められるが、守口市藤田町二丁目一八番地に安本正一が居住している事実はないことが認められるから、右甲第三号証領収証は安本正一が書いたものである旨の原告桜井幸子本人の供述は措信しえず、他にこれが真正に作成されたと認めるに足りる証拠はない。そして他に、安本正一に対する仲介料が支払われた旨の原告桜井幸子本人の供述を裏付ける証拠はないから、結局、右仲介料支払の事実は認めることができない。

5  山河開発に対する下水工事整地費等の負担金について。

原告桜井幸子本人は、昭和四四年九月頃、道路下溝を造り、地下水を汲上げる水道工事をする必要があるといわれ、道路工事負担金の名目で、坪当り五〇〇円の計算による九二万七五〇〇円を金達謙に支払った、旨供述している。そして、その裏付けとして、甲第四号証児島善二の桜井国松宛九二万七五〇〇円の領収証(日付の記載なし。)、甲第一三号証「金達謙と桜井国松の一坪四千円の履約書を預り致しました。すぐ持参します児島善二」と記載された書面が提出され、更に、乙第二〇号証英建設有限会社代表取締役米田英信が本件土地の道路負担金として九二万七五〇〇円領収した旨の記載のある特約事項と題する書面も作成されている。原告桜井幸子本人の供述によれば、桜井国松は、九二万七五〇〇円を支払った際、金達謙名義の領収証をもらったが、本件土地を友信興業に売却した機会に、児島善二に対し、右領収証を見せ、金達謙にその記載金額分を契約書の中に書入れてもらってくれるよう、あるいは、工事人の領収書をもらってきてくれるよう依頼した、その際書いてもらったのが甲第四号証、第一三号証であり、児島善二がもらってきてくれたのが乙第二〇号証である、というのである。

しかし、右供述にあらわれた工事中最も重要な水道工事を金達謙がしていないことは、原告桜井幸子本人尋問の結果によって明らかである。また、証人児島善二の証言によって真正に成立したものと認められる乙第一七号証によれば、児島善二は、大蔵事務官の質問に対し、甲第一三号証を作成した際、金達謙発行の九二万七五〇〇円の領収証を見たことも受取ったこともない、甲第四号証、乙第二〇号証は、桜井国松の、税金対策上必要だからとの要求に応じて、作成し、あるいは作成してもらったものであり、英建設は乙第二〇号証に記載されているような道路工事はしていない旨、供述しており、証人坂本良次、同児島善二も、同様趣旨の証言をしているのであって、以上述べたところからすれば、この点に関する原告らの主張にそう前記原告桜井幸子本人の供述は措信することができず、他に、右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

四  以上、検討したところによれば、桜井国松が本件土地を保有した期間は五年未満であるから、本件土地の譲渡に係る所得は租税特別措置法第三二条所定の分離短期譲渡所得に該当することとなるが、その金額は、右三の1の友信興業に対する売却金額二五七四万四九〇〇円から右二の登記費用合計二万四二〇〇円及び右三の3の山河開発からの買受金八三二万円を控除した一七四〇万〇七〇〇円と算定すべきこととなるから、この金額を超えて右分離譲渡所得の金額を一九二五万〇七〇〇円と算出してした本件更正には、右一七四〇万〇七〇〇円を超える部分について所得金額を過大に認定した違法があり、右更正を前提としてなされた本件賦課決定もまた右超える部分に関して違法であるといわなければならない。

五  よって、原告らの本訴請求は、右違法部分の取消を求める限度において理由があるのでこれを認容し、その余の部分の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 富澤達 裁判官 松本克己 裁判官 鳥羽耕一)

別紙一

物件目録

(一) 三木市細川町西字東山六五〇番の一一

山林 一七八m2

(二) 同所同番の一二

山林 一二八m2

(三) 同所同番の一三

山林 三二三m2

(四) 同所同番三五

山林 三、三三一m2

(五) 同所同番三六

山林 二、一六二m2

但し、右各土地は、昭和四七年一二月一一日付で、同所同番の一山林に合筆

別紙二

〈省略〉

別紙三

分離短期譲渡所得金額の計算

〈省略〉

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